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・女性向け二次創作サイト・「フルメタル・パニック!」宗介×かなめを取り扱っております・二次創作物、ノーマルカップリングの苦手な方、15才未満の方、荒らしさんはご遠慮下さい
 眼鏡



 とある日の休み時間。
「……ハァ」
 しばらく席をたっていた千鳥かなめは、足取り重く教室に戻ってくると自分の席にて頬杖をつき、机の上の置いたあるものをジロリとにらんで少々憂鬱そうに溜め息をついた。
「かーなちゃん。さっきはどこに行ってたの?」
 溜め息を聞きつけたように親友の常盤恭子が顔をのぞきこむと、かなめは慌てたように苦笑いを見せる。
「あはは、ちょ、ちょっとね」
 空いているかなめの後ろの席をちらりと見て、彼女の悩みのタネになっている某少年が二日前から休んでいることから、彼の問題行動が原因で呼び出されたわけではないようだと解釈した恭子は、ひきつった笑顔を浮かべたかなめにぐいと顔を近づける。
「ははーん。その顔は、どうせまた林水先輩に妙なこと頼まれて断れなかったんでしょ」
「う……キョーコは鋭いね。聞いてよもうー!」
 どん! と勢い良く机を叩いたかなめ手の横にあるものに恭子は目を留めた。
「……メガネ?」
「そう、メガネ」
 そこにあるのは何の変哲も無い普通のメガネだった。
 が、恭子と違い視力が悪いわけではないかなめに特に必要なものではない。
「どしたのこれ? カナちゃんの? あ、度は入ってないね」
 メガネを手に取りレンズをのぞきこんだ恭子はそれを訝しげにためつすがめつしている。またひとつ細長い溜め息をつくと、かなめは諦め口調で言った。
「林水先輩が、これをかけて校長たちとの会談に出席してくれって」
「えー? 何でまた?」
「気分の問題だって」
 かなめは先ほど呼び出されて出向いた生徒会室での、林水の涼しげな口調を思い出した。



「今日は美樹原君が風邪で欠席しているんだよ」
 呼び出されたかなめが生徒会室に出向くと、すでに定位置に鎮座していた林水会長は開口一番にそう口にした。
「あ、そーなんですか」
「相良君も欠席だそうだね?」
「ええ、おとといから来てないです」
 それなら仕方ない、とぱちんと扇子を閉じた林水は物憂げに首を振った。
「折悪しく本日の放課後、校長・教頭両氏と生徒会会長との会談があるのだよ」
「そんなの……予定にありましたっけ?」
「生徒会行事の予定には含まれてはいない。これはマル秘事項だ」
「はあ?」
 林水はどこかの大企業の重役のように、重々しい革張りのイスをゆっくりと回転させ背を向けた。
「ひと月に一度、様々な事項についての交渉にあたっている。いつもは書記の美樹原君にバックアップを頼んでいたのだがね」
「ああ、それで代わりにあたしに出ろと。別にいいですけど」
「問題はそこなんだよ」
 そこで振り向いた彼が取り出したのがメガネだった。
「書記という業務上、美樹原君には私の秘書的な役柄をしてもらっているのは知っているだろう」
「つーか、まんま秘書ですよね」
「この会談、実はなかなか厄介な事象を扱うことが場合が多い。この私でも校長や教頭との交渉や説得になかなか骨が折れる。そんなときは落ち着いた美樹原君の補佐には助けられることが多い」
 これはノロケを聞かされてるんじゃないかという気分になってきたかなめはますます首をかしげた。
「そういうわけで、君にはこのメガネを掛けて出席してもらいたい」
「……そういうわけってどういうわけですか」
「つまり、今回のみ君には生徒会副会長ではなく、私の秘書として控えていてもらいたい。相良君がいたなら、同行してもらえればベストだったんだがね」
「はあ」
「君にいきなり美樹原君のようになれと言われても無理だろう。形を整えていれば構わないよ」
「それで、メガネ」
「そういうことだ」
「あの、お蓮さんて、メガネは掛けてませんよね」
「秘書といえばメガネ、メガネといえば秘書。これは外せない。ちなみにこれはいわゆる秘書メガネとして一般には認識されているフォックスというタイプだ。ようは気分の問題だよ、千鳥君」



 そこまでのいきさつを聞いた恭子は関心したように頷いた
「何考えてるのかさっぱりわかんないけど、あの人が言うともっともらしく聞こえるね。たぶん、半分は趣味なんだろうけど」
「あーもう、別にメガネはいいんだけど。さっきメガネと一緒にICレコーダーとか小道具一式いろいろ渡されて、合図をしたらあれをやれとか細かく打ち合わせしてきた。会談とか言ってたけど、何やらされるのかわかったもんじゃないわ」
 恭子は頑張ってねといいつつ、瞳を輝かせてかなめにせがんだ。
「せっかくだから掛けて見せてよー! カナちゃんなら絶対似合うよ」
「えへ。そうかな」
 かなめは乗せられて、メガネのつるを開き掛けてみる。とたんに恭子が「似合うー!」と大喜びしたので、かなめは手鏡を取り出して自分の顔を眺めてみた。
「うーん。なんか、キツい感じしない? 秘書っていうかザマスーとかいいそうな……」
「そんなことないよー。なんか大人っぽいって」
 おそろいの記念にとデジカメを取り出してきた恭子は、かなめと一緒に指でメガネを上げるポーズで写真を撮ってはしゃいでいる。かなめはその様子に笑いながら、去り際の林水との会話を思い出していた。

『あのー……、もしソースケがいたら、あいつにもメガネを掛けさせてたんですか?』
『いいや、相良君にメガネは必要ない。彼はその場に居てもらえるだけで充分戦力になるからね』

 あの口調じゃ、校長たちとの会談とか交渉とか言っていても、一方的な脅しと強要が主な内容に違いない。かなめはあきらめの溜め息をつきつつ、おとといから空席になっている真後ろの机にちらりと視線を走らせた。



 そして放課後。
 林水が言うには「つつがなく」会談を終え、ぐったりとした状態でかなめはひとり生徒会室に戻ってきた。室内には誰もおらず、林水の方は別件で教員に用があるからと言って校長室を出て別れたままだ。
 たいしたことはしてないのだが、気遣いというか気苦労というか、神経を磨り減らすばかりだったのでとにかく疲れた。確かにあれは宗介の方が向いている。お蓮さんもよくあんなことできるわ――
 長机にもたれ掛るように座り込んで腕を枕にばったりと突っ伏していたら、ガラリと戸の開く音がした。
「千鳥」
 宗介だった。機嫌の悪いところに顔を出したので文句の一つや二つ言ってやろうとしたものの、あいにく疲労の方が勝っていたので、だるそうに顔をあげたかなめは軽くにらむに留めた。
「……いつ来たのよ」
「終業のチャイムが鳴ってすぐだ。授業には間に合わなかったが数学の三日分の宿題を今日中に提出すれば、提出物に関しては少し大目に見てくれるというので先ほど済ませてきた」
「あーそう。ご苦労様」
 宗介は黙ってかなめの隣に腰掛けると、顔色をうかがうようにのぞき込む。
「具合でも悪いのか」
「別に。さっきひと仕事してきて疲れて休んでるだけだからほっといて。やることないんなら帰ったら? 生徒会の仕事は特にないわよ」
「うむ」
 彼は頷いたものの、彼女の存外に邪険な態度にめげるそぶりも見せずに、かなめにじっと注いだ視線を外さない。
「……何よ」
「いや。そのメガネはどうした? 視力が落ちたのか」
「ああ……」
 掛けたままになっていたメガネの存在を思い出したかなめは、ずり落ちたそれをぶっきらぼうにぐいと押し上げた。
「さっき頼まれてやった仕事の小道具に使っただけよ。度は入ってないから」
 頭が痛い気がするのはこれのせいかしら、とかなめがメガネを外そうと指をかけようとしたその時、宗介の顔が眼前に近付いてきたことに気が付いた。
「ふむ……」
「う……うわ、ちょっと何よ!」
 驚いて距離をとろうとしてのけぞった拍子に、隣に据えてあったパイプイスの背もたれに肘をしたたかぶつけてしまって、彼女は痛む箇所をさすりつつあまりに無遠慮な行動に彼にむかって蹴りを入れる。
「なんだってーのよ! びっくりしたじゃない」
「ああ……すまん」
 謝りつつも再びまじまじとかなめの顔を見つめるので、かなめは水着を着ようがミニスカートをはこうが興味を抱くそぶりも見せないあの宗介が引くほど似合っていないのかと急に不安になってしまった。
「へ……ヘン? あ、あたしだって別に好きで掛けたわけじゃないんだからね!」
「いや、いつもの君と随分印象が変わるな」
「へ?」
「うむ」
 ひとり納得したように頷く宗介にカチンときたかなめはきっと目を吊り上げた。
「何よ! 似合ってないならハッキリ言いなさいよ! どーせ体裁だけ整えても滲み出る暴力的オーラは消えないとか言いたいんでしょうけど、これでもキョーコは絶賛してくれたんだからね!」
「そ、そうは言ってない。俺は……そ、そうだな、ヴィラン少尉によく似た雰囲気だと思っただけだ」
 かなめの剣幕にひるんだ宗介は、慌ててとっさにふと思ったことを口にした。今にもハリセンを取り出しそうな構えのかなめは、ぴたりと動きを止める。
「ヴィラン少尉? ……ミスリルの人?」
「そうだ。大佐殿の秘書官を勤めているジャクリーヌ・ヴィラン少尉だ。そういえばメガネを掛けている」
 あのテレサ・テスタロッサの秘書と聞いてにわかに興味を覚えたかなめは身を乗り出した。
「どんな人? あたし会ったことあるかな」
 考え込んだ宗介は以前に同僚のクルツ・ウェーバー軍曹が、パブで仲間たちとミスリルの女性士官についての噂で盛り上がっていたときのことを思い出した。
 とにかく秘書という肩書きがいい。エロい。仕事は出来るらしい。秘書というのがたまらない。あのメガネ越しに睨まれたい。何よりも秘書というのが(以下省略)

「……個人的に関わったことはないのでよく知らないが、有能な女性だそうだ」
「へえ、そうなんだ」
 宗介は何の気なしに言っているようだが、あまり人の容姿やら見た目やらに興味がなさそうな彼がメガネを掛けたかなめをあのテッサの有能な女性秘書のようだと評したことに、彼女はそこそこ気をよくした。
「秘書かー」
 どうやらかなめの機嫌がなおったようだと感じ取って、宗介はほっと胸を撫で下ろした。その途端、彼女がメガネを外して宗介の方へ向き直った。間を置いて身を乗り出しぐいと体ごと寄りかかってくる。
「ち、千鳥――!?」
 驚いた宗介は後ろにのけぞろうとしたものの、反射的に差し出した腕で彼女を受け止めた拍子にバランスを崩し、派手な音を立ててイスごと床に倒れこんでしまった。
「ど……どうしたんだ千鳥」
 困惑した宗介をよそに倒れた彼の体にのしかかったまま、かなめはメガネを手にニヤリと笑った。
「せっかくだから、ソースケのメガネ姿も拝ませてくれなきゃね」
 そう言うと、白い指を宗介の顔に伸ばして今まで自分がかけていたメガネを無理矢理かけさせる。
「……ふーん」
「……………」
 ほんのわずかな距離からかなめにじっと顔を見つめられて、宗介は落ち着き無く視線を泳がせた。なんとかしてこの体勢から脱出したいと思いながらも、体が硬直して動かない。やがてかなめの口元が緩み、小刻みに体が震えていることに気が付いた。どうやら笑いをこらえている。
「変か」
「うん、おかしい」
「そんなに似合わないのか」
「くっ……くく… あはは」
「……面白いのか」
「うん、びびってる宗介の顔が面白い」
「……おい」
 少々むっとしたような宗介を気にせず、目に涙を浮かべたかなめはますます声を立てて笑った。
「ごめんごめん。この形はあんまり合ってないかもね。もうすこし、角ばっててごつくてフレームが太い感じのがいいんじゃないのかな」
 悪人ぽいとんがったサングラスや射撃用ゴーグルの方がらしいだろうと頭の片隅で思い浮かべながらも、かなめはメガネ宗介を想像して結構いいじゃないかと思わずにやけてしまった。
「そういうものか」
 いまだに困惑の眼差しの宗介はそんな彼女を不思議そうに眺めている。
 思い切り笑ったかなめは、たった二日間だけだけど、留守にしていた宗介にどうしてか腹を立てていたんだということにやっと気が付いた。でも、なんだか気が済んだような気がする。
 宗介のメガネを外してあげると、よし、と気合を入れて立ち上がった。
「ま、必要ないか」
 かなめはメガネを折りたたんで生徒会長の机に置き、座り込んだままの宗介に手を差し出した。
「帰ろっか、ソースケ。お互いひと仕事終えてきたんだから、なんか美味しいものでも食べようか」
 一瞬呆けたような表情になった宗介は、笑顔のかなめからふいと視線を外し咳払いをしたあと、その手をとって立ち上がった。
「あんたは何ていうかわかんないけど、また先輩にとんでもないことやらされたのよ? 今回ばかりはソースケがいればいいのにって思ったんだからね。ホントに大変だったんだから。あ、ここの鍵は閉めなくていいわよ、先輩がまた戻ってくるって言ってたから。で、今日はごはんどうする? 美味しいものって言ってもうちにあるものに限るけど」
「……ああ」
 帰り支度をしながら上機嫌の彼女に適当に相槌をうっていた宗介は、戸惑ったように横目で彼女を見ては「わからん……」とこっそり呟いていた。


コメント:「すくせのつき」さまのしづ蒔絵さまからいただきましたー!!
     「眼鏡」という雪見の出題に対する素晴らしい解答を、宗かな作品にていただいたという次第であります。
     見せびらかし&独り占めしてたらバチ当たる精神で、ご許可をいただき拙サイトで先に公開させていただいております。
     秘書!!そしてどっちも眼鏡!!攻め千鳥ですよお客さん!!とモニタ前で萌え転げ回っています。イエエエエエ!!
     しづ蒔絵さま、本当にありがとうございます!!
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「さ、さむ……」
 どんよりと曇った真冬の放課後、千鳥かなめはひゅうひゅうと吹きすさぶ寒風に思わず立ち止まり、目を閉じて体を小さく縮めた。
 生徒会の雑事を手早く終わらせ、暗くなる前に早く家路に着きたいと足早に学校を出たのだが、とにかく寒い。コートにマフラー、手袋で完全防備していても寒いものは寒い。今朝テレビで見た天気予報では、今冬一番の冷え込みだという。
「あーもう! さーむーい!!」
 乾燥した風が眼にしみて、うっすらと涙をにじませたかなめはまるで八つ当たりのように、彼女に合わせて歩みを止めたクラスメイト兼護衛の少年に向かって叫んだ。
「うむ、そうか」
 ちらりとかなめに視線を走らせた相良宗介は、軽く頷いて首をかしげる。
「何よ。あんたは寒くないわけ?」
 高校の制服を普通に着ているだけの、何の防寒対策もしていない宗介の姿は外を歩く人々に比べはっきり言って寒々しい。ただ、その本人がいつものようにむっつりと無表情なせいもあって顔だけ見ていると寒さをまるで感じていないかのように思えてしまう。
「……そんなことはないが。この程度なら命に関わるほどではない。長時間このままだと少々障りがあるかもしれんが、あと少し辛抱すれば屋内にて暖をとることが出来る。従って今のこの状況は問題ない」
「ふーん……」
 不機嫌そうなかなめは口を尖らせて横目で宗介をにらんだ。
 ――そんなこと言ったってよく見ると彼の鞄を持つ手の指先も、耳もほっぺったも鼻のてっぺんも赤い。
 ソースケだって寒くないわけじゃない。どうせ、任務中に真冬の雪山に放り出されて身一つで帰還したときよりマシだとか、そういうマイナス方面から比較して問題ないとか考えてるに違いない。
 もともと彼は我慢強い方だし体は鍛えてあることは知っていても、そう考えると心のどこかが疼く気がして、溜め息をついたかなめは首に巻いたマフラーに顔半分をうずめておとなしく宗介の横に並んで歩き出した。

 やがて横断歩道にさしかかり、信号待ちをしているとずっと黙ったままだった宗介が唐突に口を開いた。
「千鳥」
「ん、何?」
「そんなに寒いなら……」
 かなめの方を向きながらやや下方に視線を漂わせた宗介は、口ごもりながら言いにくそうにしている。
「え?」
「その……なんだ。前から何度も言おうと思っていたのだが、寒いというのなら、もう少しス――」
 タイミング悪く通り過ぎていく数台の大型トラックの轟音に掻き消され、かなめの耳には続きが聞こえない。
「ごめん、聞こえなかったんだけど。なんて言ったの?」
 通過していった車が起していった突風を腕でかばってやり過ごし、怪訝そうに耳に手をあてて顔を寄せたかなめに、宗介は気まずそうにぐっと体をそらした。
「……いや、やはり俺が口を出すべきことではない。すまんが忘れてくれ」
「そうなの? ヘンなの」
 ますますむっつり顔になった宗介は、信号が青に変わったとたんにさっさと早足で歩き出していく。
「あ、待ってよ」
 駆け足になったかなめが宗介の隣にならんだその途端。
くしゅっ!
 宗介が軽く握ったこぶしを顔にあて、小さくくしゃみをした。
 滅多に聞くことがないその音としぐさに、かなめは思わず宗介をまじまじと見つめてしまった。
「だいじょうぶ?」
「ああ。問題ない」
 ずず、と鼻をすすった宗介は何でもなさそうに真っ直ぐに前を見ている。かなめは少しあきれたように言った。
「ソースケ、寒いの? 風邪ひいたんじゃない?」
「千鳥、一般的にくしゃみというものは鼻の粘膜が物理的に刺激されることが原因であり必ずしも風邪をひいているからといって」
「あー、わかったわかった」
 横断歩道を渡りきったかなめは、言い訳のような講釈をたれるのを遮って彼の背後にまわり、自分の首元に手を掛けてぐいとマフラーをつかんだ。


 *


「千鳥?」
 突然視界から消えたかなめの姿を追おうとした宗介の鼻先に、ふわ、となんだかいい匂いと、暖かなものがかすかに触れた。
「もう! 見てるこっちが寒いってば!」
 気が付くと、今の今まで彼女が首に巻いていた黄色地のタータンチェックのマフラーがいつの間にか宗介の首に巻きついている。
 他人に背後をとられ布を首に巻きつけられるなど、戦闘中であったなら死に直結するような事態であるのに、やはり彼女に関してはガードが甘くなっているようだ。そんなことを瞬間的に頭の片隅で考えながら、宗介は大いに慌てていた。
「ち、千鳥」
「いいから、じっとしてて」
 宗介の正面にまわったかなめは、彼の首元でマフラーの両端を持ってぎゅっと結んだ。
「これでよし。あったかいでしょ?」
「しかしこれでは君が」
 コートの襟元から今までマフラーに覆われていた彼女の白い肌が覗き、冷たい外気にさらされている。かなめは宗介の視線にフンと鼻をならして、今まで外していたコートの一番上のボタンをかけた。
「これでいいでしょ。あたしはコートも着てるし手袋もあるもん。……それに、あんたに風邪ひかれたらあたしが困るんだから」
「む……」
 うつむくかなめを見下ろした宗介は、彼女の頬が赤いのは寒さのせいだけではないだろうという予感が頭をかすめて、急に胸が苦しくなり自分の顔が火照っていくのを感じた。
「では、借りておこう。恩に着る」
 目線をあさっての方向にそらしてなんとか礼を言うと、かなめが早口にまくしたてた。
「風邪移されたら困るっていうか、インフルエンザだったら大変だし、流行って学級閉鎖になったらもっと大変だし、そ、それにホラ、あんたがもし寝込んじゃったら護衛はどうするのかっていうか、あたしは別にいいんだけど、他に仕事もあるんだし……」
「ち、千鳥、し、絞まってるんだが」
「うわ、ごめん」
 足下を見つめながらマフラーの端をつかんでぐいぐいひっぱり、宗介の首を絞めていたことに気がついて、かなめはぱっと手を離した。
「とにかく。あんただって風邪ひくってことが前に立証されてるんだから、もうちょっと気を付けてよね!」
「……わかった」
 キッと宗介をにらむかなめに彼が素直に頷くと、彼女はようやく満足そうに口元をほころばせた。
「あ、雪」
 目の前に白いものがちらついているに気が付いて、かなめは空を見上げる。風に乗ってふわふわと雪が舞っていて、見慣れたはずの街はいつのまにか幻想的な雰囲気が漂っていた。
「うわー通りで寒いはずよねー」
「…………」
 天に向かって手をつきだしてはしゃいだ様子のかなめに対し、マフラーのおかげで彼女の匂いとぬくもりに包まれたような気分の宗介は首周りをいじりながらぼんやりとしている。
「どうかした?」
「……いや」
 平静を装って再び歩き出した宗介は、冷たい空気を吸い込んで何故か浮き立つ心を落ち着かせる。
「やはり寒いな」
「そうだね、寒いね」
 少し眉尻を下げて、ぽつりと呟いた宗介に微笑んで返事をしたかなめは、マフラーにあわせた色合いの手袋をはめた手を宗介の冷えた指先にそっと伸ばした。
「千鳥――」
「て、手袋のかたっぽだけでも貸してあげたいけど、あんたにはサイズが合わなさそうだからこれで我慢して」
 宗介は自分の空いた方の手を、かなめにきゅっとつかまれて思わずうわずった声をあげてしまう。
「君にここまでしてもらうわけには」
「いいから黙って」
「千鳥」
「うちに着くまで、黙ってて」
 彼女のその一言に、今までとは違う甘やかな響きが混ざっているような気がして、厚手の布越しに触れた指先から宗介の全身が熱く燃えるような衝撃が走る。
 一瞬のためらいののち、宗介はつないだその手にわずかに力をこめた。
「ありがとう」
 宗介の礼の言葉に、かなめは応えない。
 先ほどかなめがしていたように顔半分をマフラーにうずめた宗介は、彼女の真っ赤に染まった横顔を気付かれないようにそっと盗み見る。伏せた睫毛や頬や赤い唇を、真白い雪がはらはらとかすめていくがきれいだと思った。

 彼女の行動や言葉に胸が苦しいのも、体が熱くなるのも、今なら理由がわかる。
 ――あたたかい。
 心も体も、彼女を想うときのようにあたたかい。
 かなめの優しい言葉や自分を気遣う行動も、二人で過ごすたったこれだけのわずかな時間も、心底愛しくも幸せに思う。ずっとこのままでいたいと思うのは、果たしていけないことだろうか。

 気が遠くなるほど深いところに行きそうになった思考を振り切って現実に引き戻し、宗介は顔を上げた。
(だが、だからこそ彼女に忠告せねばなるまい)
 急に険しい顔つきになった宗介は、先ほど言いかけて結局言えなかったこと――そんなに寒いのなら、いや、寒い寒くないに限らず短すぎるスカート丈の改善を行い、夏でも冬でも太腿の露出を避けるべきだと進言できるよう努力しよう、と心に誓うのだった。




コメント:「すくせのつき」さまのしづ蒔絵さまからいただきましたー!!「ドラゴンマガジン」200903月号付録ポスターの宗かなです。見せびらかし&独り占めしてたらバチ当たる精神で、ご許可をいただき拙サイトで先に公開させていただいております。
     いやもうマジでこれが読みたかったとモニタ前で叫びました!!嬉しすぎると何言うてエエのんかわかりませんが、すみませんって言いながらスライディング回転土下座で顔は超笑顔とかそういう(謎) 
     しづ蒔絵さま、本当にありがとうございます!!