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 更新情報:
 2009/10/02「みんなでつくろう宗かなソング集」改訂・菊さまありがとうございます!
 2009/09/22 「霧雨」UP

 「みんなでつくろう宗かなソング集」随時募集中です

 ご注意:最近メールなどで事故が多いようです。
 もし一ヶ月以上返信がなければ事故の可能性もございますので、お手数をおかけいたしますが他手段からのご確認もお願いいたします(平伏)現在のところ、一番の推奨手段はweb拍手です。

 2009/11/05
 「エマ」の作者さんの新作!と思ってそのわりには変わったタイトルだなーと思って買った本が該当作品掲載雑誌創刊号でした…自分的にはアタリの雑誌で良かったですが、その中の可愛い美人さんが女性としてたいへん酷い目にあったので銃を取ることを選択しました、って作品の作者さんコメントが「レイスの声が大原さやかさんと知ってショックだった」って内容でした。
 ああうんボイスチェンジャーかけたら美人さんもなんかの犯人も声同じよなー…、って意味でいいのか?と思いつつも、フルメタの話題で嬉しかったです。棚ぼたー!
 以下折りたたみです。
 写経講座に参加っつーか先生を拙宅にお招きしようとしたら…なんか先生がすごいノリノリで急いではって、だーもー!という感じで、ご近所の公民館借りました。主に身内やご近所の方々と習います予定。
 しかしあの公民館、即売会は難しいんだよなー、畳敷きだし地の利も悪いし。
 オンリー主催とかアンソロ取りまとめとかはしたことがあったので、そのノリで出来るとこまでやっちまえー私も忙しいしな宗かな書きたいし!と、どばーっと色々決めて送ったら、向こう側のまとめ役の方に「早っ!!ちょっと待って!習ってからのがいいって!たぶん先生も焦ってるから!」というようなことを言われましたー。
 いやあのノリノリなのは私でなく先生だったんだ信じてー!みたいなやり取りに疲れました。
 この時期クソ忙しい(いえ万年忙しいですが脳内妄想で花が咲き乱れてますゆえ)趣味のある初心者で素人に何をさせるか、全く。
 一瞬、今すぐはやらんでエエんか思って、だったら宗かな作業をー!と、パアアアアとなりかけたですよ!先生と初対面以前な上にまだ習ってもないぞ困ってるのはこっちだよオイ。とダダ漏れる。
 ダダ漏れたところを大事に取っといた千鳥屋さんの抹茶カステラに慰められてました。何だアレものすごく美味しいな!底に美味しいあんこ敷いてあるとか生地がしっとりモチモチとか何ごとだ!ありがとうございます、H見さまー!…アップショットを取り忘れて泣き濡れました。
 先生に居心地良く来ていただく気は満々ですが、相手にとって何が居心地いいのか、そのうちの何が可能なのかは、仮想でも正確めなデータに基づいて枠を決めて詰めていかなしゃあないしー。
 まあ、夜中の打ち合わせ状態じゃないよネ?みたいな感じです。
 盛り上がるよね夜中チャットとかで、とんでもない時期に新刊予定ゴリ押しとか良くある話じゃーん、っていう。そのスピードで連絡したらダメなのねー。ヲタクがビビられる理由の一端はこれなのか?と思ったり。間が空いた隙に宗かなの作業しようそうしよう。
 で、写経は要するにご先祖供養なんですが、土地の浄化にもいいそうです。けっこう人間って見えないところに色んなもん残していくんで、そこをお片付けっつーか。ちょっとご縁があったんでやろっかなーって思ったんですが。じ、時期がなー。そりゃーお片付けも早い方が良いんですが。
 八十年くらいまで遡れるそうで、調べてると昔の戸籍のいい加減さに泣けてきますというか、何考えてこんなことになってんだみたいのが結構あります。婚姻届と子供四人ぶんの出生届がいっぺんに!とか。
 軍曹さんとか届けどうするつもりなんでしょうかと、つい。
 基本的に事実婚方向だろうけども、それじゃ私生児扱いです!とかなると俺の嫁と家族だー!!となるのか、安全第一!とかいうて戸籍のない国に家族ごと逃亡しようとして、初対面から俺の嫁ー!な方ににプロレス技で固められたりとかなのか。
 では。
 拍手お返事です!
 〜わー!!千鳥ー!!〜
 いらっしゃいませ!いつもありがとうございます!
 すみません、あまりに旨そうだったので取る前に食べてしまいました抹茶カステラと千鳥もなか!!可愛かったのにー!!しおりもまた撮りたいのですが、幼児にバレるとたいへんなので隠してあります。最近パソコンも引っぱられててヤバイです。
 んーまあ、裏側をよく見る位置になんでかおりがちですので、雰囲気いいところは逆にすごい感動しますよ。連絡ツールを使いこなせてるところなど素晴らしいです。
 前に刑事ドラマジャンルのに行ったらスタッフがインカムしててステキー!と思いました。
 自分らがした時はトランシーバー使おうぜ!って盛り上がったことがあります。しめ縄で使用禁止エリア囲ってたらウケたとか、そういうのが楽しかった…。
 東京DOGSまだ見られてないけど、そうなのですか、やはり。軍曹さんもイマドキ流行りの男の子に仲間入りですか…ッ!
 ちなみにどうも主役の方の言動から察するにBL層が狙われてるそうです。なんてこったい。千鳥が四コマの男千鳥なら!と脳内補完してみようかと思います。しかし男女逆になるとハリセンとプロレス技がちょっと可愛くないわ…。BLならまだ可愛いか、プロレス技でも。
 こちらからもまたおぜひ礼させて下さいねー!
 ほなまた是非いらしてやって下さいませ!お待ちしておりますvvv

 〜FC2でカート〜
 いらっしゃいませ!いつもありがとうございます!
 便利ですよね!私もよそさま見て知りました!ばたばたしててコメント出来ませんで申し訳ない!
 …ところで私の弟よりお若くてらっしゃる(笑)ワタクシ48年製の量産モデルです。親がうるさいのでこっそり買った雑誌で知った局留めも使ってました。
 東京のイベントが遠いからファン○ードとかアニメデ○アとか駆使…したくても、こづかい自体がなかったとかそんな。たまたま地方イベントがド近所だったのでずいぶんお世話になりましたです。
 他に楽しみがなかったからか、勢いゆえか、裏の苦労がわからないゆえかっつーのは考えます(笑)とりあえずお店の飾り付けを楽しむ方向で!
 そちらさまにもこっそり伺ってますが、そらあんだけご自分がレベル高かったら、目も肥えておられるということだから以前ほどご満足されるのは難しいと思いますです。どこの方もやはり皆さんそんな具合で、最終的に育てる方に回るという話のようです。 
 ほなまた是非いらしてやって下さいませ!お待ちしておりますvvv

 拍手オンリーの方々もありがとうございます!
 お陰さまで元気をいただいております!


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 ピンポン、と妙に脳天気なドアチャイムの音とは裏腹に、全身を緊張させた相良宗介はセーフハウスの扉にそっと忍び寄り、向こうからはこちらの気配が伺えないよう最小限の動きでドアの外にたたずむ人物を魚眼レンズで視認した。
 その人物―千鳥かなめは、敵ではない人物のうち、おそらくはもっとも頻繁にここを訪れる人物であろう。
 だが、何かがいつもと違う。
 以前同じようにして見たことのある彼女は、機嫌の善し悪しはあるにせよ、どことなく落ち着かない様子であることがほとんどだった。
 よもや敵の変装かと警戒するも、殺意も敵意もなく淡々と見上げてくる眼差しに胸が騒いで、数秒の逡巡ののち宗介はかまえていた銃を下ろすと、セーフハウスのドアを細く開けた。
「千鳥」
「…なんだ、いたの」
 そう言った声は明らかに千鳥かなめのもので、髪も頬もやわらかな曲線を包む薄い長袖のシャツもスプレーを浴びたかのように濡れている。
 室内に流れ込んできた冷たい空気と細かな水の粒から彼女と同じ匂いを嗅ぎ取って、人一人分通れるだけドアを開けた宗介は「入れ。今タオルを持ってくる」と言った。
「日本史のノート、返してもらいに来ただけだから」
 閉まるドアで押し込むように部屋の内側に誘い入れた彼女に、乾いたタオルを渡してやる。
 これが誰かの変装であると言うのなら、相手は彼女と一卵性双生児で彼女を常に観察しているに違いない。だが突き出されたタオルを受け取る仕草にさえ、普段の彼女につきものの独特の感情の抑揚がまるでなかった。
 寝起きのテンションの低さとも違う、落ち着いているようで心ここにあらずなふるまいに、何故か以前中学時代の先輩と遊園地で出歩いていた彼女を思い起こす。
 礼を言ってうつむき気味に体を拭く彼女のただでさえ白い肌は血の気が薄く、何か体を温めるものをと湯を沸かして思案したのち、コーヒーを入れた。
 彼女にそうしてもてなしてもらった事は数あれど、彼女をもてなすのは初めてだったことに気付いたのは、勧められるままに粗末な椅子に座った彼女が上品だがぼんやりとした仕草でマグカップを手に取ってからだった。
 矯めたぶんはじけるような勢いさえなければ、以前ここで同じようにもてなした同じ年代の上官に劣らず立ち居振る舞いの美しいひとだということに何故か焦りを感じて、彼は彼女の用件である借り物のノートを学生鞄から抜き出して差し出す。
「明日、学校へ行って渡すつもりだった。長々と借りてしまってすまない」
 ゆっくりとした仕草でノートを見、ガラス玉のように澄んではいるが表情の無い瞳で宗介を見上げた彼女は、ノートを静かに受け取った。
「あたしも別に急いでないんだけど、たまたま外に出たから」
 ついでだし、とテーブルの上に置いたノートの表紙を眺めるように視線を落としてかなめが呟く。
 他の相手とならば馴染みであるはずの沈黙が何故か居心地悪くてたまらなくなって、宗介は彼女の次の言葉を待った。しかし彼女は何も問わず語らず、それでいて不機嫌でもなく、上機嫌でもない。必要な事を必要なだけ、そしてそれによって場の空気を支配しようともしていない、至ってまともな対応である。
 にもかかわらず彼は、悪態さえもどこか面白そうに弾む勢いで次々にぶつけてくる彼女の声を、今まで自分がどれほど支えにしていたのかを思い知った。
「…用が、あったのか?」
 とうとう静けさに耐えかねた彼は、話の糸口を探して口火を切る。それまでの、他人に余計な興味を持たず自分からは必要以上に関わろうとしない彼を知る人物なら、一人残らず驚いたであろう行動に、ただ一人目の前の人物だけが無関心だった。
「え?」
「先ほど、外出と言ったが」
「ん。コンビニにチケット買いに」
「常磐と何かするのか」
「ライブに行くから。キョーコとシオリとミズキと」
「いつだ?」
「再来週の日曜」
 情報を引き出すように仕向けて、そのぶんだけ返ってくる応えでは足りなくなって、しばらく思案する。彼女は怒っている訳では無いらしいと声の調子や、素直に返される質問の答えからも知れたけれど、何故かとてももどかしい。
 会話をしたくないということなのだろうか。しかしそのような返答もそれを匂わせる行動もない。
 かといって、自分との会話を楽しんだり、集中したりするそぶりもない。彼女の今まで自分に見せた態度でよく似たものを記憶の中から検索すると、なにか非常に興味を惹かれるものを他に見つけた時の反応に近い。うわのそら、というやつだ。
 実のところ、殺し合うか挑発し合うか戦場でそれぞれの仕事に従事しているかというやり取りの多い宗介は、親しいと言える相手と面と向かって二人きりでこういう扱いを受けること自体、経験が薄かった。
 そもそも記憶にある限り、戦闘と日常的に関わることのない全くの民間人に親しい人間ができたのは、彼女の護衛として陣代高校に転入してからだ。
 もう何度目か分からないほどその表情を伺い見た彼女は、ほとんど啜りこそしないがコーヒーを持つ両手はしっかりしているし薬物を摂取している気配もない。むしろ気配そのものが薄い、と言えばいいのだろうか。
 お互いに用がないなら彼女を家に帰せばいいのに、何故かこの状態の彼女を自分以外の誰にも接触させてはいけない気がした。
 行き合った誰かに声をかけられたなら、無関心であるにもかかわらず抵抗せずについて行ってしまって、…そのまま、どこか別のところに居着いてしまうのではないか。
 ふと湧いた不吉な予測に胸の内に黒雲がわいて、冷たい汗が背中を流れる。
 彼女を引き止める用などない。しかしせめてこの状態から回復するまでは。
 何を話しかけたものかと考え抜いた末、宗介は彼女にも関係のありそうな事柄を引っぱり出して、ぼそりと言った。
「…安い豆なのだが、」
 特にこれと言って反応のないかなめを見、これでは何のことなのか伝わるまいし、そもそもコーヒーの豆が安いということは不味いとイコールであって、飲用に大して向かないものをわざわざ出したのは何故であったのかと考えた末に、彼はぼそぼそと付け加えた。
「……コーヒーの話だ」
「そうなの。ありがと、淹れてくれて」
 付け足すように言われた礼は、怒りをぶつけられるより痛かった。
「ここの備品なのだが、マオが言うには大佐殿の許可は得ているので、その、ここへ客人があれば俺の好きにしろ、との、ことでな」
「ふうん」
 常ならば、誰がどこでいつ買ったのか、美味いだの不味いだの、そもそも自分に戦闘以外の技能があったことについて、なにがしかの感想をプラスあるいはマイナスの感情と共に述べられるのだろう。
 即座に適切に対応できず対応するのも待たないで矢継ぎ早にかけられる質問や、彼女の周囲においては世慣れぬと思われているようなからかいに辟易したこともあるけれど、それらは全てきらきらした暖かいもので。
 何かあったのかと問うたところで、きっと彼女は「何も」と答えるのだろう。
 ため息をつく資格など自分にあるのか、と宗介は今までの自分に対しての周囲の感想を思い起こす。特に普段のかなめの「あんたってば取っつきにくいんだから、少しは愛想よくしなさいよ」という言葉が沁みてきて、おそらくはこのようであったのだろうかと省みたが、それで彼女との間にあるもの、あるいはなくなってしまったものがどうにかなるわけもなく。  
「…体は温まったか」
 苦しまぎれにかけた声にかぶるように、コーヒーを置いたかなめがぶるっと肩を震わせる。 
「ごめん、お風呂入って着替えたい」
 もう帰る、とは言われなかったにしろ出て当たり前の言葉に身がまえてしまってから、濡れた服の彼女を家にも帰さず、彼女から請われたわけでもないコーヒー一杯で引き止めていたことを後悔したが、次に打てる手がまるで読めない。
 両手で自分を抱きしめるように肩から二の腕をさすっていたかなめは、ほとんど口をつけなかったブラックコーヒーに映る自分の顔を見つめる。
 何もかもが遠くで起きているかのようで、何も感じない。ここでこうしていることも、もう何度も同じ事のくり返しのようで、既視感の檻に永遠に閉じこめられているかのようだった。
 実際は、特に用もないのに彼の方から自分を部屋に招き入れたことも、どこか焦った風情の彼がコーヒーをふるまってくれたのも初めてだ。
 いい匂いだとも思うし、インスタントでもあればマシだと思っていた彼の部屋にドリップのコーヒーがあって、しかも彼が淹れたということに普段なら驚くはずなのに。
 マヒしているのか、なくなってしまったのか、それとも今までの反応こそが演技で、メッキが剥がれてしまっただけなのか。
 いつもの目眩と既視感から這い出すように、財布だけ持って頼まれたチケットの予約と入金をしに最寄りのコンビニへ行った。
 こうなる直前に、彼に電話をして通じなかったらイヤだから直接彼の部屋のドアを叩いてやろう、出たついでだし用事が無い訳じゃないしと思いついたのは覚えていて、指令をロボットがこなすように順番にクリアしてここまできた。
 コンビニで知らない人の中、妙な動きをするまいと緊張していたら少しずつ収まってきたものの、店を出たらいつの間にか降り出していた霧雨に侵食するように濡らされて、一人でびしょ濡れになってひどい思いをしたことを思い出してしまって、こんどはそれさえも遠ざかっていって。
 何も感じないことは危険だとだけうっすらと感じながら、思いがけず在宅していた彼を見上げた。
 風邪、引いたら明日困るよね。
 …誰が、困るんだろ。
 しんどいのもどうせそのうち治まるんだから、適当に寝てれば済むんだし。だとしたらあたしは別に困らない。
 ソースケはいつもより口数が多い。あたしが喋らないからか。これが記憶に残っていていつもみたいに感じる自分に戻れたなら、自分はきっと彼をからかって笑うのか、それともどこかに大事にしまい込むのか。
 何もかもがどうでもいいと溶け崩れて静まりかえろうとする心の中、激しく波立った記憶をさぐって奥の奥の自分がもがいている。
 マイナスの感情でもかまわない、血を吐くような痛みさえ死に至る無感覚よりマシだ。否、無感覚こそが死なのだろう。じゃなきゃ、きっとこんなにあがかない。
 自分の唇を奪った若者の妹、今の自分と同じように彼にもてなされていた、自分と共振した美しい少女。
 彼の後ろから情事の後のようにはにかんだ笑顔で、濡れた髪から雫をしたたらせ彼に着替えのことを尋ねていた、おそらくはあの時、裸であったろう彼女のこと。
 映像も湯気の温度も彼の部屋のにおいと混じる彼女のかすかな香りですら思い出せるし、つい先頃まで、いや今も、彼女と目の前の彼が深い関係にあってもおかしくはないと思っているのに。
 身体の芯が冷えて頭痛がし始めていても、もしかしたら誰かが困るのは困るなあとしか思えないかなめは唇を動かして、普段ならば言わないであろうことをあえて言ってみた。 
「お風呂かして、ソースケ。できたら着替えも。Tシャツでいいから」
 ていうか帰れっての。目の前じゃんあたしんち。何やってんの。
 そういう声がして、どこかでその調子、と思う。まだ本調子じゃない。…本調子って、どれ?
 あたしって、どんなだっけ。
「浴室は使用中だ。片づけに少々かかる」 
「そう」
「多少、厄介な用があったのだ。…君が気にしないのならば俺はいっこうにかまわんのだが」
「じゃ、いいわ」
 多分この言い方だとソースケは慌ててるのに、なにを慌ててるのかって勘ぐったり、テッサには貸したのにあたしにはなんでダメなのよって拗ねながら、別にあんたんちの風呂場に入ったことがない訳じゃないしって思ったり、片づけときなさいよだの何を散らかしたのよだの言うのが「いつものあたし」ってやつなんだろうな。
 「いつものあたし」をやるのって、面倒くさい。
 風邪引いたらマズイってのも、面倒。
「着替えならば貸すぞ」
 首を振るのもだるくなってきた。どうせしばらくしたら収まるんだろうけど、もしもずっとずっとだるかったらどうなるんだろう。もっと何も感じなくなるのかな。
「…千鳥?」 
 彼にしては珍しくはっきり心配そうに「具合が悪いのか」と聞かれて、何も感じないくせにやたら早く回る頭だけが「ああソースケ心配してるわ」だの「何をもって具合を悪いと定義するのか」だの「どう答えたら後腐れがないか」だの検討し出して、たくさんの項目があった割に総合して判断するのに、そんなにはかからなかった。
「うちを出る前から、ちょっとね」
 ばさり、と音を立てて頭の上から大きなTシャツがふってきた。かぶせるように着せられた上から何か大きな重い布を肩にかけられて、更に頭を被うようにタオルが乗せられた。
「待っていろ、浴室を片づける。気をしっかり持て、千鳥」 
 何だろう、こんなふうに慌ててるソースケを前も見た気がする。
―ねえ、こわかった?
 あたしがぎとぎとの血まみれになって…
 あの時たぶん彼は「そうだな」って言ったから怖かったんだろう。
 何がコワイの。
 今のあたし、別に血まみれじゃないんだけど。
「……千鳥」
 なに、と見上げたらソースケの顔がやたら近い。
 おでことおでこをくっつけて熱を計ってるらしい。彼らしくない仕草だなあと思った途端に、そういやキョーコがソースケに熱の計り方の話をしてたっけと思い出した。
『あんな風に手で計ったりもするけど、おでことおでこくっつけるやり方もあるよ』
 今度やってみたら、って笑ってたから、その通りしたんだろう。そういえばさっき手がおでこの辺りに当たってた気がする。
 体温計は…ワキの下が使えないからか。こいつなら口の中に突っ込むと思うんだけど何でだろう。噛んで割るといけないとでも思った辺りが正解か、けどこいつの家のならデジタル式なんじゃないの、とっさに思いつく体温計はやっぱあのガラスのやつなのかしら。こいつの行く先々でデジタル式が普及してなかったのかもだし。
 顔が近づくのもこいつとキスしたいと思ったことも何度もあったっけ。
 熱はなかったらしく、そのまま額を離した彼の灰青がかった濃い色の瞳を至近距離から見つめてかなめは言った。
「このままキスでもしてみる?」
 言われたことの意味がわからないのか、けげんそうな素振りの宗介に唇を近づける。
 我ながら間抜けな格好だわとか、お互い目も閉じてないなとか。…あんなに、考えるだけでもドキドキしてたのに。
 結局、こんなもんか。唇に息が当たってるってことは、息を殺してるだけで止めてはないのね。
 たかがキスの一回や二回だしこれでもういいじゃん。どーせこいつ相手じゃ何も変わらないんだから。
『ココロもキモチも痛くないなら、その方がいいんじゃないの』
 さあ明け渡せ、と何かがほくそ笑むのにも、腹も立たない。
 つまりは彼の知らない間にあの手この手で揺さぶりをかけてくる囁きとの攻防に、自分が疲れてしまったんだろうと、かなめは他人事のように分析する。
 この力は、きっと彼が想像しているようなものじゃないんだって、あたしの外側をいくら守ってもどこへ逃げても無駄だなんて彼には言えない。
 …何で言えないんだろ。それもわかんなくなってきた。
 前髪の影に隠れて、彼がどんな顔をしているのかもわからない。
 彼がミズキにしたように鼻でもつまんでやろうかと思いついて、そういえば、と彼の答えを聞いていなかったことを思い出した。
 「無許可でキスしたらレイプと同じ」ってソースケに言ったのはあたしなのに、肝腎のあたしが無許可じゃダメじゃん。
 ソースケがいつか本当のキスをしたくなったとき、もしかしなくてもそれはあたしが相手じゃないかも、でも。
 あたしが、雨の中であいつにされたみたいに、ソースケにするのはだめ、だ。
 唇にかかっていた呼吸は止まっていたが、僅かな隙間にこもった体温が伝わってくるような距離で、かなめは彼の前に立ってから初めてはっきりした声を出した。
「ごめんソースケ。やっぱりこういうの」
 やめよう、って言った筈なのに、何かにふさがれてて唇が動かなかった。
 ニアミスでキスしちゃったのかとか、でもあたしは止まろうとしたんだけどとか、キスされるの気持ちいいと思っちゃったのが自分でも情けなくて悔しかったんだっけとか…―

「そー…すけ?」
 無言で離れた彼がふれ合う直前に歯ぎしりをしていたことを思い出したかなめは、肩と背中に回っていた腕が容赦なく体どうしを押し付け合うのを感じて、急に苦しくなった。
 ぶかぶかのTシャツに拘束された両腕は、じっとり濡れた生ぬるい長袖の中だ。
 目元を不器用に指先でぬぐわれて自分が泣いていることに気が付いて、恥ずかしくて顔をそらそうとしているのに、強く抱え込まれていて頭が動かせない。 
 耳元で彼の息が弾んでいるのを聞いたかなめは、汗ばんでいた全身が更にかあっと熱くなるのを感じた。
「…すまんが当分君に風呂は貸せん」
「あっ、あんたになんか借りねーわよ!バカ!!」
 もう帰る、と半泣きの声で言ったかなめの背後で携帯が鳴る。
 彼女を抱きしめたまま携帯を取り短い受け答えをした宗介は通話を切ったとたん、通話先が聞いたらあらゆる意味で目を剥いたであろうほどはっきりと舌打ちした。
 もしも彼女にそういった意味での誘いを受けたなら、断る理由は自分には無い、とは以前から考えていた。
 しかしいざそうなってみて、いつもと違ううわのそらの彼女とそんなことをするのは、彼女から水を向けられたとはいえ卑怯だと、思った。
 それでも離れることもできずいたら、ふと本来の彼女に戻った気がして、いつもの彼女ならきっとこんなことはやめようと言うに違いないと思っていたら、案の定で。
 理由がないどころかもうこらえることができなくなっていたのに気付いたのは中止を告げる言葉を封じてしまってからのこと、泣かれてはしまったけれどじかにふれ合った熱と柔らかさはどこまでも甘くて、

―ずっと恐れていた拒絶は、そこからは感じられなかった。

 彼女に風呂を貸すだと?
 冗談でも無理だ、と宗介は自問自答する。
 風呂場にあるのは洗浄液に浸した火器類だが、そんなものなくとも彼女が自分の側で裸になるなどしたら、彼女の許可を待たずに自分と通じることを強要してしまうかもしれない。
 大切にしたい相手にそんな感情など持つ方がおかしいと思っていたのに、彼女と深くつながりあえるならと願う強さの方が、こんなにも激しいものだとは。
 今まで無用の知識と思っていた様々なことが一気に腑に落ちて、不本意でもあるが、それでも知る前に戻りたいかと問われれば絶対に否だった。
 東京で過ごす時間以外は働かねばならないが、仕事がなくなれば妻子を得た際に養えない。蓄えも必要だろう。だが彼女の側に出来るだけいたい。
 香港で何度も帰りたいと思っていた場所は、ここではなく彼女の家で、…彼女の家より堅固なセキュリティを誇る民家はおそらく東京都下に数件もあるまい。
 当然ながらこのセーフハウスより彼女の家の方が護りは固めてあるし、そもそもこのセーフハウスはミスリルのものなのだから、自分が用意した家屋ならともかく一応は職場である以上、過ぎたことは避けなくては。
 むっつりと何ごとか考えている彼の隙をついて彼の腕を逃れたかなめが、既に足下にわだかまっていた軍用毛布とタオルを蹴散らしてかぶせられていたTシャツを脱ごうとすると「着ていろ」と子供のように抑え込まれてしまった。
「着てらんねーわよ、こんなだっさいの!サイズ違いすぎるし!!」
「具合が悪いのだろう、脱ぐなら帰ってからにしろ。それ以前に君の服装は装備が薄すぎる。もっと厚みのある丈の長いものを着用しておけ」
「うっさい、さっさと行きなさいよ!遅れるわよ!!」
「問題ない。家まで送る」
「向かいなんだから、いいってば」
「行くぞ千鳥」
「人の話聞けってのよ!馬鹿ソースケ…」
 怒鳴るために顔を向けたら、目のあった彼が熱のこもった苦しそうな眼差しをした事が胸に響いて動けなくなって、せっかく止っていた涙がまたあふれてきたかなめはあわてて下を向き、拳で目元をこする。
 ちどり、と呟いた宗介が湿り気の残る髪をそろそろと撫でているのを感じて、彼女はうつむいたまま必死で声を出した。
「む、無許可はレイプと同じって言ったでしょ!」
「先ほどの誘いは許可のうちではないのか」
 ぐ、とつまったかなめの肩口に埋もれるように頭をもたせかけて、宗介がぼそりと囁いた。
「俺はこれからも無許可でかまわんぞ」
「黙んなさいよ、やかましい!!」
 耳元で感じた体温に思わず首をすくめたかなめは大声で怒鳴って彼を振り払ったが、宗介はどこ吹く風とばかりにそっぽを向いてこめかみをかいている。
 …なんなのその、やったもん勝ちみたいな態度は!
 地団駄を踏みたくなった彼女は、袖を通したもののぶかぶかのシャツを頭からかぶったおかしな格好で自宅玄関前でぴたりと立ち止まると、低い声で訊いてやった。
「ちょっと聞くけど。あたしがやめようって言いかけたとき、…ひょっとしてあんたわざと」 
「………その事については帰還後に話し合おう。体調にはくれぐれも気をつけるように」
 では行ってくる、とやけにイキイキと敬礼した彼の背後、ブレた夜景から爆風が押し寄せた。電磁迷彩をまとった迎えのヘリの姿から雨の止んだのを知って、「天使」というコードネームを持つ女子高生は彼と彼を連れ去るものを思いきりにらみ付ける。
「帰ったら覚えてなさい!」
 強い風に叩かれて彼がなんと答えたか聞こえなかった筈なのに、今までこめられたことのない響きを持った声が体の奥に届いて頬と唇が熱くなる。
 ついこないだまでECSが雨に弱いなんて知らなかったのに。 
 まだキスしただけなんだから、と扉にもたれてつぶやくかなめは、強く目を閉じて眉を寄せ、先ほどとはまるで違う類の目眩に耐えた。



 コメント:以前アンケートでやった「温度差ありすぎ(千鳥がツンツンツンツンデレ)」です。順次あげられたらいいなあ…。

 拙サイトのお客さまであるyosiさまが拙文「ゆめのなか ゆめのそと」を御覧になって、書いて下さった素敵宗かなです。正統派宗かなですよ!素晴らしい!!


 こわいもの


「恭子、大丈夫?」
 晴れ渡った空が清清しい朝の通学路。登校途中に一緒になった親友の常盤恭子に、かなめは挨拶もそこそこにそう問いかけた。
「え、いきなりなぁに? カナちゃん」
「顔色が優れない。不調があるなら、悪化する前に然るべき施設で治療を受けるべきだぞ、常盤」
 きょとんとした様子で返す恭子に、やはり一緒に登校していた宗介が言葉を添える。物言いはぶっきらぼうだが、彼なりに心配しての言葉であることには違いない。
 しかし、そんな二人の言葉を、恭子はぱたぱたと手を振って、苦笑気味に否定した。
「大丈夫だよぉ、具合悪いとかじゃないの。ただ、ちょっと夢見悪くて」
「……夢見?」
 恭子の言葉に、宗介は軽く眉を寄せて首を傾ける。その横から、かなめが気遣わしげな声を上げた。
「なに? 悪い夢でも見たの?」
「う〜ん、ちょっと怖い夢……寝る前に心霊特番の再放送見てたから、そのせいだと思うんだけど……」
 答えながら、夢の内容を思い出してしまったのか、恭子の声がだんだんと尻すぼみになる。恐怖を誤魔化すように、ぽつぽつと夢の内容を語りだした。
「夢の中のあたし、カナちゃんと相良くんに頼まれて、生徒会の手伝いで、遅くまで学校に残ってるの。で、一緒にお仕事してて、途中であたし、一人でお手洗いに行ったのね。それで、手を洗ってる時に、鏡越しに、後ろに人影が立ってるのが見えて。驚いて振り向いたんだけど、誰もいなくて……目の錯覚かな、って安心したら……」
 そこで、恭子は言葉を切り、自身の肩を抱くようにして、一つ身震いする。
 話に引き込まれてごくりと唾を飲むかなめと、相変わらずの仏頂面の宗介に向け、恭子は吐き出すように言葉を続けた。
「……鏡のある後ろから、冷たいものが首に触れて……低い女の声で『つかまえた……』って……!」
「ぅひぃいぃぃぃぃぃッ!」
 悪夢だっ、と悲鳴を上げるかなめに、恭子は泣きそうな声を漏らす。
「そこで目が覚めたんだけど……ホントに怖かったんだよぅ」
「ああ、もう、それはマジ悪夢ね……それは尾を引くわ……」
 かなめも自身の肩を抱いて同意する。しばらく、暗くなってから校内のトイレに一人で行くのは遠慮したい気分だ。
 しかし、怯える女子二人の横で、この手の話に何の感銘も受けない稀代の朴念仁男は、不可解そうな表情を浮かべる。
「悪いが、俺には今の話のどこが恐ろしいのかよくわからん。後ろから首筋に触れた冷たいものは、刃物か何かだったのか?」
「なんであんたはそっち方面に行くかな!? 確かにそれはそれで怖いでしょうけど!」
 かなめのツッコミにも構わず、宗介はひたすら首を捻る。
「そもそも、手を洗っている最中に振り返ったなら、背後に人の立つスペースはないだろう。状況が非現実的だ。ありえん」
「ありえない状況だから怖いっつってんでしょうが!?」
 すっとぼけた発言をする宗介に、ついにかなめのハリセンが炸裂した。
 後頭部を張り飛ばされ、つんのめるような姿勢になった宗介は、その姿勢のまま器用にかなめを見上げると、
「痛いぞ、千鳥」
「うっさい!……あー、もういい。あんたにこの手の話の恐怖を理解させようってのが、そもそも徒労なのよね……」
 疲れた声で、かなめは諦めの言葉を紡ぐ。
 散々怪談を聞かせられたあげく、心霊スポットと噂される廃病院で不可解な事象のオンパレードを目の当たりにしても、けろりとしていた男だ。この手の感受性は皆無に等しい。
 この男が恐れるとしたら、実質的な被害を伴う事象だけだ。ただ現れて脅かす幽霊やら、何があっても実際には無事で済む夢の中の出来事など、そもそも恐怖の対象になりえないのだろう。
 と、そこまで考えて、かなめはふと思いついた疑問を口に出した。
「っていうか、あんたは見ないの? 悪夢っていうか、怖い夢」
「む……」
 怖い夢、といわれて宗介が真っ先に思い出したのが、いつぞや彼の上官の少女が来日してきた際に見た夢である。
 その上官が護衛役である宗介と同居、という状況に過剰反応して過保護で危ないオヤジと化した上官の副官。彼に『彼女に何かしたら……』と散々脅された上、過労でぶっ倒れた影響で見た悪夢だ。
 その夢の内容を、飛び起きた後の状況とセットで思い出して、だらだらと脂汗を流し始めた宗介に、かなめと恭子がぎょっとなった。
「さ、相良くん大丈夫!?」
「あんたが思い出しただけでそんなになるって、一体どんな悪夢よ……!?」
 そうかなめに問われても、しかし宗介には答えられない。
 上官と宗介の関係を知らない恭子の前で、同居云々の話はできないし、同居のことを知っているかなめだけに答えるにしても、何故だか妙に抵抗があった。何かが非常にまずい、と本能が危険信号を発している。
 しかし、この流れで何も答えない、というのも無理だ。自分は思いきり動揺を外に出してしまっている。『悪夢など見ていない』と答えても、彼女たちは信用しないに違いない。
 ならば、何か別のことを答えて誤魔化そう。その答えに行き着いて、宗介は別の悪夢を記憶から探し――
 思い当たった、日本(ここ)に来てから久しく見ていなかった悪夢の記憶に、我知らず表情が冷えたものになった。
「――宗介……?」
 急に雰囲気の変わった宗介に気付いてか、かなめが訝しむような声をかける。
「相良くん……言いたくないなら、言わなくてもいいよ?」
「……いや、そういうわけでは……」

 人の機微に敏い恭子が気遣わしげに言ってきたのに、宗介は頭を振りかけて――思い直したように頷いた。
「いや、そうだな……俺自身、話すのは構わないが――君たちに聞かせていいような内容ではないだろう」
 いつになく重い声でそう呟いた宗介に、かなめと恭子はかけるべき言葉を失った。
 傭兵として数多の戦場を巡り歩いてきた彼が、自分達に聞かせるべきではないと思うような悪夢。彼の素性を知るかなめは、朧気ながらもその内容を察して、俯いた。
 それは、きっと――人の死が関わってくるような内容で。
 傭兵としての彼を知らずとも、戦場育ちであることは知っている恭子も、何となく察したのだろう。言葉を失って、ただ気遣わしげに宗介を見つめている。
 しばし、朝の通学路に相応しくない、重苦しい沈黙が三人を包み――
「っはよー、さーがら! 千鳥と常盤も、おはよーさん!」
 ばしんっ、と駆け寄り様に宗介の背を叩いてきた、オノDこと小野寺孝太郎の明るい声で、その沈黙は破られた。
「おはよう。どうしたの? 三人とも、暗い顔して」
 オノDと一緒だったらしい風間信二が、宗介たちの様子に首を傾げる。その言葉に、恭子が真っ先に反応して答えた。
「あたしが昨日の夜、怖い夢見ちゃって、その話してたんだよ。ホンット怖かったんだ〜」
「なに? 夢の話でビビッて、お前らお通夜みたいに黙りこくってたのかよ。ダッセ〜!」
 殊更大げさに告げて見せる恭子を、オノDがからかう。
 話題を宗介のことから逸らした恭子の機転にかなめは感謝しつつ、自身もオノDの言葉に乗っかった。
「何よ〜、ホントに怖いんだからね! 恭子、こいつらにも話してやって!」
 怒鳴るかなめに応えて恭子が再び夢の内容を語り、それをオノDが青褪めつつもありきたりだと笑い飛ばし、風間が朝からやめてよと震え上がった。
 三人を包んでいた完全に暗い空気は消えて、一同はひとしきり怪談話で盛り上がりながら賑やかに学校へと向かう。
 そうして校門をくぐった時、それまで黙って一同の話の聞き手に回っていた宗介が、不意に恭子へと声をかけた。
「常盤、目覚めてからも悪夢を恐れるというのは、つまりその悪夢が現実にならないかと危惧している訳だろう」
「え?……ああ、うん、そうかも」
 宗介の言葉に、一瞬驚いたように目を見開いてから、恭子は頷いた。
 悪夢で見た場所、似たような状況を恐れるのは、無意識のうちに、夢と同じことが起こるのではと危惧するからだ。
 恭子の返答に頷いた宗介は、目の前の校舎の見上げ、備え付けの時計を見つめながら、言葉を続ける。
「俺が保安を担当する陣代高校は、例え夜であろうと容易く不審者が侵入できるものではない。また、もし侵入者がいたとしても、必ず俺が察知して対処する。君が夢見たような状況は、まずありえないと保証しよう」
「いや、それ、何か違うような……」
 宗介の『鏡の中の女の霊=刃物を持った不審者』の方程式に基づいた発言に、信二が呆れたように呟く。
 しかし、恭子はその発言に軽やかに声を上げて笑うと、笑顔で礼を言った。
「ありがと、相良くん。そうだね、相良くんの防犯している学校じゃ、お化けもきっと怖くて出て来れないよ」
「うむ。よくわからんが、不安が払拭されたなら何よりだ」
 自分で言うように全くわかってない顔で頷く宗介に、かなめは苦笑する。
 恭子が笑ったのは、宗介が普段の調子を取り戻して安心したからじゃないかな、などと思って――いつもならハリセンでツッコむような戦争ボケ発言をスルーした自分に気付き、それは寧ろ自分の方だと自覚して、一人で何となく気恥ずかしい思いを味わうのだった。


  *****************


 乾いた砂塵混じりの風は、咽るほどに硝煙と血の臭いがした。
 共に戦った部族の皆が、語り合い、笑いあっていた場所は、今や、瓦礫と肉塊が転がる廃墟と化していた。
 と、瓦礫の影から、よく知る男の腕が――自ら授けた名で呼びながら、厭うことなく自分に触れてくれていた腕が、見えて。
 呆然とそちらに歩み寄って、その手を両手で握った。さして力を込めたわけでもないのに、その腕はずるりと自分へ引き寄せられる。――その先にあるべきものがない、腕、だけが。
 そのことに、名も知らない重く暗い感情が胸に押し寄せて来て――
「――絶望療法は効いたかなぁ、カシム」
 聞こえた、酷く愉しげな声に、弾かれたように振り返った。
 そこにいたのは、額に第三の目のような傷を持つ、逞しい体躯の男。腰掛けていた、禍々しいほどに赤い巨人の胸元から降りて、こちらへと歩み寄ってくる。
 この男が──皆の、仇。
 憎悪を込めてその男を睨みつけ、ふとその時、男の足元に転がる円盤が何故か目に留まった。
 見覚えのある、それ。
 彼のささやかな聖域、平和な学び舎の象徴――校舎の、時計の数字盤。
 見上げる度に、またここに来れたと、安堵を抱かせてくれたその象徴は、痛ましくひしゃげて地に転がって。
 ──何故、あれが、ここに。
 そう思った時、いつの間にか目前まで歩み寄っていた男が告げる。
 心底愉しげに笑いながら、狂気に満ちた声音で。
「いい顔だねぇ、カシム。癌を潰した甲斐があるってもんだ」
 癌、という言葉に、背に言いようのない怖気が走った。


 この男が、そう呼ぶのは――自分にとって、とても大切なもののはずで。


 呆然と、辺りの瓦礫を改めて見回す。
 薄汚れながらも、元は白かっただろう外壁。その下に覗く、白と青、黒の布切れ。
 見慣れた制服の――切れ端。


 ──違う、そんな、はずは――


 見えた景色から逃げるように俯いて――そこで見えたものに、凍りつく。
 自ら両手に抱く腕。日に焼けた、厳つい戦士の腕――ではなく。


 青い線の入った白い袖に包まれた、華奢な、女性の、


 ── 千 鳥 の


 その名が脳裏に浮かんだ瞬間――視界が暗転した。




 はっ、と引き付けのような声を漏らして、宗介は弾かれたように身を起こした。
 暗闇の中、荒い息を繰り返すうち、闇に慣れた目が辺りの景色を映す。
 自身が腰掛けるベッドの他には、簡素なナイトテーブルだけの質素な部屋。どこか薄汚れた内装に、ここが日本ではないと思い出す。
 “仕事”で来た内紛中の小国。この部屋は作戦開始までのセーフハウスの一室だ。両隣の部屋にはチームメイトたちの気配がある。
 と、そこまで確認して、我知らず詰めていた息を大きく吐き出した。
「……夢……」
 吐息に、安堵の色をした音が乗る。
 ───そうだ。あれが夢以外のなんだというんだ。
 宗介はかすかに震えている両手を、夢の残滓を握りつぶすように握り締める。
 部族を失ったあの日の夢は、昔はよく見た。自分もいつかはあんな風に、血と硝煙の臭いの中で果てるのだろうと、見る度に思っていた。
 けれど。
 彼女と出会って。彼女の世界を知って。そこに居場所のようなものを見つけてからは、ぱったりと見なくなっていたのに。
 何故今更、しかもあんな形で。
 無茶苦茶な時系列。自身は“家族”を失った直後の“カシム”。なのに、あの男はまだあるはずのない額の傷を持ち、ヴェノムに乗っていた。そして、あの頃の自分が知りもしなかった日本の高校の校舎を、彼女を、かけがえない帰る場所のように思っていた。
 無茶苦茶な夢だ。ありえるはずもない荒唐無稽な夢。なのに。
「――どうして……」
 呻く自分の両手は、震え続ける。
 あの男は死んだ。死の床に伏したあの男へ、他ならぬ自分自身の手で、激情のままに弾丸を叩き込んだ。あまつさえ、遺体はあの男自身が仕掛けた爆弾によって、跡形もなく吹き飛んだ。
 だから、ありえない。あの男が、自身の大事なものを壊すことは。
「もう、ありえないというのに……」
 呟いた時、ふと、脳裏に声が甦った。


 ───ありえない状況だから怖いっつってんでしょ!


 つい先日、悪夢の話をした時に、彼女が言った言葉。あの時は不可解だった言葉が、不意に胸の中にすとんと落ちる。
「そうか……そうだな、千鳥……」
 思わず、彼女の名を呟く。
「君の言う通りだ……」
 震える拳を解いて、顔を覆う。


 ───ありえない悪夢を見るのは、ありえないとわかっていても、なおそれを恐れずにいられないからだ。


 ありえないことと言い聞かせても、なお不安なこと。
 そんな不安から生まれる理不尽な悪夢だから、どうあったって払拭できない。
「……ありえないから、怖い……」
 思わず、呻く。何ということだろう。自分自身の不安からくる妄想が、銃弾よりも恐ろしいなど。
「――千鳥……」
 応えてくれるはずもない、遠くの人の名が、声になって零れる。


 ───声が、聴きたい。


 声が聴きたい。無事を確かめたい。この不安が下らぬ妄想だと、笑い飛ばせるように。


 そんな思いが、知らず手を動かして。


「やかましいッ! 何時だと思ってんのよッ!」


 長いコール音の後、携帯越しに響くのは、誰よりも声を聞きたかった人の怒鳴り声。
 びくりと竦んだ隙に通話を切られて呆けていると、ややあって、彼女の番号から着信。出た直後、弱気だった受話器越しの声は、言葉を交わすうち、徐々に怒りの色を帯びて声量を増していく。
「む……それは、その……すまん。つい、失念していて……!」
 宗介は、受話器越しの怒鳴り声に必死で応える。だらだらと脂汗を流して、非常に焦った様子で。
 でも、それでも。
 彼も、彼女も知らないけれど。
 そんな彼の口許は、ほのかに、柔らかく緩んで。


 ───もう、悪夢は、彼の元を訪れない。





コメント:ただいまyosiさまのコメント待ちですが、管理人が短気なのでUPさせていただいております。一人で拝見してたらバチ当たるー(やかましい)!!
     拙サイト管理人としましては、ラブラブ宗かなをいただけましたことにモニタ前で雄叫びを上げながらお礼を申し上げまくるしか芸がございませんです(暑苦しい)。
     yosiさま本当にありがとうございます!!

 眼鏡



 とある日の休み時間。
「……ハァ」
 しばらく席をたっていた千鳥かなめは、足取り重く教室に戻ってくると自分の席にて頬杖をつき、机の上の置いたあるものをジロリとにらんで少々憂鬱そうに溜め息をついた。
「かーなちゃん。さっきはどこに行ってたの?」
 溜め息を聞きつけたように親友の常盤恭子が顔をのぞきこむと、かなめは慌てたように苦笑いを見せる。
「あはは、ちょ、ちょっとね」
 空いているかなめの後ろの席をちらりと見て、彼女の悩みのタネになっている某少年が二日前から休んでいることから、彼の問題行動が原因で呼び出されたわけではないようだと解釈した恭子は、ひきつった笑顔を浮かべたかなめにぐいと顔を近づける。
「ははーん。その顔は、どうせまた林水先輩に妙なこと頼まれて断れなかったんでしょ」
「う……キョーコは鋭いね。聞いてよもうー!」
 どん! と勢い良く机を叩いたかなめ手の横にあるものに恭子は目を留めた。
「……メガネ?」
「そう、メガネ」
 そこにあるのは何の変哲も無い普通のメガネだった。
 が、恭子と違い視力が悪いわけではないかなめに特に必要なものではない。
「どしたのこれ? カナちゃんの? あ、度は入ってないね」
 メガネを手に取りレンズをのぞきこんだ恭子はそれを訝しげにためつすがめつしている。またひとつ細長い溜め息をつくと、かなめは諦め口調で言った。
「林水先輩が、これをかけて校長たちとの会談に出席してくれって」
「えー? 何でまた?」
「気分の問題だって」
 かなめは先ほど呼び出されて出向いた生徒会室での、林水の涼しげな口調を思い出した。



「今日は美樹原君が風邪で欠席しているんだよ」
 呼び出されたかなめが生徒会室に出向くと、すでに定位置に鎮座していた林水会長は開口一番にそう口にした。
「あ、そーなんですか」
「相良君も欠席だそうだね?」
「ええ、おとといから来てないです」
 それなら仕方ない、とぱちんと扇子を閉じた林水は物憂げに首を振った。
「折悪しく本日の放課後、校長・教頭両氏と生徒会会長との会談があるのだよ」
「そんなの……予定にありましたっけ?」
「生徒会行事の予定には含まれてはいない。これはマル秘事項だ」
「はあ?」
 林水はどこかの大企業の重役のように、重々しい革張りのイスをゆっくりと回転させ背を向けた。
「ひと月に一度、様々な事項についての交渉にあたっている。いつもは書記の美樹原君にバックアップを頼んでいたのだがね」
「ああ、それで代わりにあたしに出ろと。別にいいですけど」
「問題はそこなんだよ」
 そこで振り向いた彼が取り出したのがメガネだった。
「書記という業務上、美樹原君には私の秘書的な役柄をしてもらっているのは知っているだろう」
「つーか、まんま秘書ですよね」
「この会談、実はなかなか厄介な事象を扱うことが場合が多い。この私でも校長や教頭との交渉や説得になかなか骨が折れる。そんなときは落ち着いた美樹原君の補佐には助けられることが多い」
 これはノロケを聞かされてるんじゃないかという気分になってきたかなめはますます首をかしげた。
「そういうわけで、君にはこのメガネを掛けて出席してもらいたい」
「……そういうわけってどういうわけですか」
「つまり、今回のみ君には生徒会副会長ではなく、私の秘書として控えていてもらいたい。相良君がいたなら、同行してもらえればベストだったんだがね」
「はあ」
「君にいきなり美樹原君のようになれと言われても無理だろう。形を整えていれば構わないよ」
「それで、メガネ」
「そういうことだ」
「あの、お蓮さんて、メガネは掛けてませんよね」
「秘書といえばメガネ、メガネといえば秘書。これは外せない。ちなみにこれはいわゆる秘書メガネとして一般には認識されているフォックスというタイプだ。ようは気分の問題だよ、千鳥君」



 そこまでのいきさつを聞いた恭子は関心したように頷いた
「何考えてるのかさっぱりわかんないけど、あの人が言うともっともらしく聞こえるね。たぶん、半分は趣味なんだろうけど」
「あーもう、別にメガネはいいんだけど。さっきメガネと一緒にICレコーダーとか小道具一式いろいろ渡されて、合図をしたらあれをやれとか細かく打ち合わせしてきた。会談とか言ってたけど、何やらされるのかわかったもんじゃないわ」
 恭子は頑張ってねといいつつ、瞳を輝かせてかなめにせがんだ。
「せっかくだから掛けて見せてよー! カナちゃんなら絶対似合うよ」
「えへ。そうかな」
 かなめは乗せられて、メガネのつるを開き掛けてみる。とたんに恭子が「似合うー!」と大喜びしたので、かなめは手鏡を取り出して自分の顔を眺めてみた。
「うーん。なんか、キツい感じしない? 秘書っていうかザマスーとかいいそうな……」
「そんなことないよー。なんか大人っぽいって」
 おそろいの記念にとデジカメを取り出してきた恭子は、かなめと一緒に指でメガネを上げるポーズで写真を撮ってはしゃいでいる。かなめはその様子に笑いながら、去り際の林水との会話を思い出していた。

『あのー……、もしソースケがいたら、あいつにもメガネを掛けさせてたんですか?』
『いいや、相良君にメガネは必要ない。彼はその場に居てもらえるだけで充分戦力になるからね』

 あの口調じゃ、校長たちとの会談とか交渉とか言っていても、一方的な脅しと強要が主な内容に違いない。かなめはあきらめの溜め息をつきつつ、おとといから空席になっている真後ろの机にちらりと視線を走らせた。



 そして放課後。
 林水が言うには「つつがなく」会談を終え、ぐったりとした状態でかなめはひとり生徒会室に戻ってきた。室内には誰もおらず、林水の方は別件で教員に用があるからと言って校長室を出て別れたままだ。
 たいしたことはしてないのだが、気遣いというか気苦労というか、神経を磨り減らすばかりだったのでとにかく疲れた。確かにあれは宗介の方が向いている。お蓮さんもよくあんなことできるわ――
 長机にもたれ掛るように座り込んで腕を枕にばったりと突っ伏していたら、ガラリと戸の開く音がした。
「千鳥」
 宗介だった。機嫌の悪いところに顔を出したので文句の一つや二つ言ってやろうとしたものの、あいにく疲労の方が勝っていたので、だるそうに顔をあげたかなめは軽くにらむに留めた。
「……いつ来たのよ」
「終業のチャイムが鳴ってすぐだ。授業には間に合わなかったが数学の三日分の宿題を今日中に提出すれば、提出物に関しては少し大目に見てくれるというので先ほど済ませてきた」
「あーそう。ご苦労様」
 宗介は黙ってかなめの隣に腰掛けると、顔色をうかがうようにのぞき込む。
「具合でも悪いのか」
「別に。さっきひと仕事してきて疲れて休んでるだけだからほっといて。やることないんなら帰ったら? 生徒会の仕事は特にないわよ」
「うむ」
 彼は頷いたものの、彼女の存外に邪険な態度にめげるそぶりも見せずに、かなめにじっと注いだ視線を外さない。
「……何よ」
「いや。そのメガネはどうした? 視力が落ちたのか」
「ああ……」
 掛けたままになっていたメガネの存在を思い出したかなめは、ずり落ちたそれをぶっきらぼうにぐいと押し上げた。
「さっき頼まれてやった仕事の小道具に使っただけよ。度は入ってないから」
 頭が痛い気がするのはこれのせいかしら、とかなめがメガネを外そうと指をかけようとしたその時、宗介の顔が眼前に近付いてきたことに気が付いた。
「ふむ……」
「う……うわ、ちょっと何よ!」
 驚いて距離をとろうとしてのけぞった拍子に、隣に据えてあったパイプイスの背もたれに肘をしたたかぶつけてしまって、彼女は痛む箇所をさすりつつあまりに無遠慮な行動に彼にむかって蹴りを入れる。
「なんだってーのよ! びっくりしたじゃない」
「ああ……すまん」
 謝りつつも再びまじまじとかなめの顔を見つめるので、かなめは水着を着ようがミニスカートをはこうが興味を抱くそぶりも見せないあの宗介が引くほど似合っていないのかと急に不安になってしまった。
「へ……ヘン? あ、あたしだって別に好きで掛けたわけじゃないんだからね!」
「いや、いつもの君と随分印象が変わるな」
「へ?」
「うむ」
 ひとり納得したように頷く宗介にカチンときたかなめはきっと目を吊り上げた。
「何よ! 似合ってないならハッキリ言いなさいよ! どーせ体裁だけ整えても滲み出る暴力的オーラは消えないとか言いたいんでしょうけど、これでもキョーコは絶賛してくれたんだからね!」
「そ、そうは言ってない。俺は……そ、そうだな、ヴィラン少尉によく似た雰囲気だと思っただけだ」
 かなめの剣幕にひるんだ宗介は、慌ててとっさにふと思ったことを口にした。今にもハリセンを取り出しそうな構えのかなめは、ぴたりと動きを止める。
「ヴィラン少尉? ……ミスリルの人?」
「そうだ。大佐殿の秘書官を勤めているジャクリーヌ・ヴィラン少尉だ。そういえばメガネを掛けている」
 あのテレサ・テスタロッサの秘書と聞いてにわかに興味を覚えたかなめは身を乗り出した。
「どんな人? あたし会ったことあるかな」
 考え込んだ宗介は以前に同僚のクルツ・ウェーバー軍曹が、パブで仲間たちとミスリルの女性士官についての噂で盛り上がっていたときのことを思い出した。
 とにかく秘書という肩書きがいい。エロい。仕事は出来るらしい。秘書というのがたまらない。あのメガネ越しに睨まれたい。何よりも秘書というのが(以下省略)

「……個人的に関わったことはないのでよく知らないが、有能な女性だそうだ」
「へえ、そうなんだ」
 宗介は何の気なしに言っているようだが、あまり人の容姿やら見た目やらに興味がなさそうな彼がメガネを掛けたかなめをあのテッサの有能な女性秘書のようだと評したことに、彼女はそこそこ気をよくした。
「秘書かー」
 どうやらかなめの機嫌がなおったようだと感じ取って、宗介はほっと胸を撫で下ろした。その途端、彼女がメガネを外して宗介の方へ向き直った。間を置いて身を乗り出しぐいと体ごと寄りかかってくる。
「ち、千鳥――!?」
 驚いた宗介は後ろにのけぞろうとしたものの、反射的に差し出した腕で彼女を受け止めた拍子にバランスを崩し、派手な音を立ててイスごと床に倒れこんでしまった。
「ど……どうしたんだ千鳥」
 困惑した宗介をよそに倒れた彼の体にのしかかったまま、かなめはメガネを手にニヤリと笑った。
「せっかくだから、ソースケのメガネ姿も拝ませてくれなきゃね」
 そう言うと、白い指を宗介の顔に伸ばして今まで自分がかけていたメガネを無理矢理かけさせる。
「……ふーん」
「……………」
 ほんのわずかな距離からかなめにじっと顔を見つめられて、宗介は落ち着き無く視線を泳がせた。なんとかしてこの体勢から脱出したいと思いながらも、体が硬直して動かない。やがてかなめの口元が緩み、小刻みに体が震えていることに気が付いた。どうやら笑いをこらえている。
「変か」
「うん、おかしい」
「そんなに似合わないのか」
「くっ……くく… あはは」
「……面白いのか」
「うん、びびってる宗介の顔が面白い」
「……おい」
 少々むっとしたような宗介を気にせず、目に涙を浮かべたかなめはますます声を立てて笑った。
「ごめんごめん。この形はあんまり合ってないかもね。もうすこし、角ばっててごつくてフレームが太い感じのがいいんじゃないのかな」
 悪人ぽいとんがったサングラスや射撃用ゴーグルの方がらしいだろうと頭の片隅で思い浮かべながらも、かなめはメガネ宗介を想像して結構いいじゃないかと思わずにやけてしまった。
「そういうものか」
 いまだに困惑の眼差しの宗介はそんな彼女を不思議そうに眺めている。
 思い切り笑ったかなめは、たった二日間だけだけど、留守にしていた宗介にどうしてか腹を立てていたんだということにやっと気が付いた。でも、なんだか気が済んだような気がする。
 宗介のメガネを外してあげると、よし、と気合を入れて立ち上がった。
「ま、必要ないか」
 かなめはメガネを折りたたんで生徒会長の机に置き、座り込んだままの宗介に手を差し出した。
「帰ろっか、ソースケ。お互いひと仕事終えてきたんだから、なんか美味しいものでも食べようか」
 一瞬呆けたような表情になった宗介は、笑顔のかなめからふいと視線を外し咳払いをしたあと、その手をとって立ち上がった。
「あんたは何ていうかわかんないけど、また先輩にとんでもないことやらされたのよ? 今回ばかりはソースケがいればいいのにって思ったんだからね。ホントに大変だったんだから。あ、ここの鍵は閉めなくていいわよ、先輩がまた戻ってくるって言ってたから。で、今日はごはんどうする? 美味しいものって言ってもうちにあるものに限るけど」
「……ああ」
 帰り支度をしながら上機嫌の彼女に適当に相槌をうっていた宗介は、戸惑ったように横目で彼女を見ては「わからん……」とこっそり呟いていた。


コメント:「すくせのつき」さまのしづ蒔絵さまからいただきましたー!!
     「眼鏡」という雪見の出題に対する素晴らしい解答を、宗かな作品にていただいたという次第であります。
     見せびらかし&独り占めしてたらバチ当たる精神で、ご許可をいただき拙サイトで先に公開させていただいております。
     秘書!!そしてどっちも眼鏡!!攻め千鳥ですよお客さん!!とモニタ前で萌え転げ回っています。イエエエエエ!!
     しづ蒔絵さま、本当にありがとうございます!!

 web拍手やメールなどでいただいた、皆さまが主観・独断・偏見で「これは自分にとって宗かなだ!」と思われた曲名をこちらに掲載させていただきます。
 いただいた順に上に追加していきます。同じアーティストさんの作品はまとめます。
 お一人さま何曲でもかまいません。曲情報だけの御記入でもけっこうです。

 曲名、その理由もしくは想像してしまったシチュエーションや歌詞の部分など語ってやって下さい
 よろしければ(あれば)曲の歌詞URL、HNの公表の可・不可をお書き添えいただけますと幸いです。とくに不可と無ければ掲載いたします。
 オススメ理由が素晴らしい方が多いので、全文掲載したいところですが、ちょっくしまとまりにくいので雪見が勝手に抜き出してまとめます。申し訳ない!!
 30文字以内であればそのまま掲載いたしますので、雪見に勝手にいじられたくない方はまとめておいていただけますと助かります。

 カテゴリはもしこれだと思えばどうぞ。
 宗かな・宗→かな・かな→宗・宗→←かな、宗介・かなめそれぞれ一人・もしも二人が小さかったら・幼なじみだった・夫婦だったら・老年だったら・江戸時代だったら・どうぶつだったらなどでもOKです(こちらはおありでしたら付記いたします)。
 ジャンルも歌詞の有る無しも問いません。
 「その曲を聴いた、あるいは歌詞を見たときに、皆さまの頭の中に宗介かかなめか、あるいは二人ともがいること」だけが条件です。
 番外としてフルメタの他のメンバーだとお感じになった歌でもかまいません。
 例:「この曲はレナード→カリーニンだー!(ビバルディ「四季」より「春」)」「クルツくんが歌いそう(帰ってきたヨッパライ)」などのように思われましたら、是非ご一報下さいませ。
 ご注意:これはあくまで例なので、ものっそいムチャ書いてみました。
 
 中村中「風立ちぬ(かな→宗・「つづくオン・マイ・オウン」からのフルメタのようで。純粋で真っ直ぐな「貴方」は宗介。そんな貴方を守るために去るかなめ)」動画こちらです(菊さま)
 ウエンツ瑛士「Awaking Emotion 8/5(宗→かな・かなめを救う為に、不可能な作戦を可能にしようと戦う宗介のよう)」動画こちらです(菊さま)
 スピッツ「冷たい頬(歌詞がかなめや宗介を彷彿とさせる・一線引いている事後の二人のようです)」(miuさま)
 ポルノグラフィティ「アゲハ蝶」(マスヒヨさま)
 JITTERIN'JINN「夏祭り(宗→かな・歌詞に一瞬で宗かなだと思いました!!! )」(キムチさま)
 水樹奈々「pray(歌詞の『僕』が宗介に、『君』がかなめにぴったり)」(yosiさま)
 SURFACE「さあ(「まもって守護月天!」OP・ソースケに言う、かなめの言葉みたいです!)」
 秦基博「シンクロ(宗→かなで最終的に明るく終われるところ、信じたい…! )」
 Dreams Come True「やさしいキスをして(基本はかなめ→宗介、宗→かなな部分もあり)」(まつこさま)
 GLAY「すべて、愛だった-La vie d'une petite fille-(未来からの回顧みたいな感じ)」(Miserablerさま)
 Kelly Sweet 「We are one(DAM歌詞・要ログイン・動画こちらです)」
 絢香「WHY(宗←かな・どどーんと彼を受け止めたいと願う懐の大きさが、まさにかなめ)」曲はこちら(こっぺぱんさま)
 SING LIKE TALKING「みつめる愛で(すべてが終わった後で、傷ついて身も心もボロッボロになっているであろうお互いを、こうやってやさしく慰めあってくれたら、嬉しいなあと、思います)」(ころうどんさま)
 テゴマス「キッス〜帰り道のラブソング〜」(枯道狂華さま)
 ET-KING「たいまつ(そーかなはもちろん、ミスリルもあるかなと)」
 スキマスイッチ「猫になれ(同人的宗→かな・猫千鳥)」
          「願い事(宗介はVMC以降も告白のチャンスを窺っていたに違いない!というのが前提の曲)」
 B’z「いつかのメリークリスマス(ちろりと夫婦になった宗介がVMCの頃の事を思い出してる様に聞こえる)」(梶原つつじさま)
 aiko「ロージー(かな→宗)」
    「それだけ(かな→宗)」
 マドンナ「LIKE A VIRGIN(軍曹ソング・バージンを、童貞ではなく新兵と訳すのがみそ)」(ころうどんさま)
 SMAP「僕は君を連れてゆく(宗→かな・部分的に男女逆転)」
 Mr.Children「and I love you(宗→かな・どうしようもなく急に〜♪のメロがきゅんとします)」 
 KinKi Kids「愛のかたまり(かな→宗)」(うにくろさま)
 中島みゆき「(ちろりに歌って頂きたい)」
 川嶋あい「君に…(宗→かな)」
 小田和正「まっ白(宗介←かなめ:アルバムタイトルが『そうかな』コピーが「相対性の彼方」だそうです)」(ころうどんさま)
 つじあやの「戦場のメリークリスマス(涙出てくるくらいの切ない宗かな)」(mayさま)
 Grover Washington Jr.「JUST THE TWO OF US」(尊子さま)
 真心ブラザーズ「きみとぼく手書きブログ尊子さま←素敵作品がお有りです・是非!)」
 おニャン子クラブ「バナナの涙(同人的宗かな)」(mogさま)
 音速ライン「ポラリスの涙(原作宗かな)」(mogさま)
 島みやえい子「スカラベの祈り(歌詞の「ラピス」の下りが核心を突いています)」(梶原つつじさま)
         「I need you(宗介目線の少し切ない宗かな)」(梶原つつじさま)
 BUMP OF CHICKEN「ダンデライオン(ミスリルパート?)」(さるさま)
 風味堂「stay with me(DBDの宗かなのシチュエーション・心情)」
     「そっとLove Song…(宗介ソング:極北とOMOとOMFの混合、曲の後半がOMOとOMFに近いイメージ)」
     「手をつないだら(宗介ソング)」
 Base Ball Bear「SHE IS BACK」(齋吉かがりさま)
 平井堅「いつか離れる日が来ても」(風見流沙さま)
 TM NETWORK「Girl(宗→かな)」(雪見 寒)
 「Self Control(方舟に曳かれて)(宗→かな)」(雪見 寒)
 和田アキ子「あの鐘を鳴らすのはあなた」(雪見 寒)
 一青 窈「ハナミズキ」(雪見 寒)

番外:風味堂「家出少女A(「薄汚れた“海軍”に“体”を売った」ぐらいの勢いの解釈をすればマオ姐さんの過去にリンクするかも)」
   THE HIGH-LOWS「日曜日よりの使者(宗かな二人でクルツくんのことこう思ってそう)」(雪見 寒)